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Volume 3 No.1
October 1997
The Japan Journal of Multilingualism and Multiculturalism
多言語多文化研究
日米マルチエスニック人の民族アイデンティティ:
自己主張と社会の反応

Stephen Murphy-Shigematsu,
Tokyo University, International Center

日本人とアメリカ人の間に生まれた子供の、思春期・青年期における
民族アイデンティティとその発達について考察する。こういった日米マ
ルチエスニック人が、どのような民族アイデンティティを自分のものと主
張し、他者がそれをどのように受けとめ、どう反応を示すかを調べ、彼
らの主張とそれに対する周囲の反応を中心に述べる。先ず、日本とア
メリカにおける社会文化的環境が、彼らのアイデンティティの主張に与
えた影響について概要を説する。次に、彼らが主張する様々な民族ア
イデンティティを個別にとりあげて説明し、これらの主張に対して周囲が
どのような反応を示すかについて考察する。調査方法として、日本人
の母親とアメリカ人の父親を持つ18歳から38歳までの47人を日本と
アメリカ双方の地で面接し、半体系的なインタビューを行った。調査の
結果、こうした日米マルチエスニック人が日本とアメリカの社会的文化
的変化に貢献し、またその変化から恩恵を受け、その結果彼らの民族
アイデンティティが好ましい影響を受けていることがわかった。彼らは
単一民族のアイデンティティを、普通である、あるいは望ましいとみな
す傾向にあるが、その反面、どちらか一方の民族のみを主張すると、
周囲からは受け入れられないことが多いという問題を抱えている。広く
一般化している「ワン・ドロップ・ルール」(例えば一滴でも黒人の血が
混じっていると黒人とみなされるような捉え方)に基づいた不合理な民
族分類法によれば、日米マルチエスニック人は民族のヒエラルキーの
下位に分類されるだろう。しかし、民族グループの境界に位置する彼
らは、両義的な領域におり、彼ら自身の意思のいかんにかかわらず周
囲から様々に定義づけられる存在である。近年、複数の民族背景を持
つ人々にとって、彼らの様々な民族的側面すべてを保持することが、
自然でありかつ重要であると考えられるようになってきた。彼らへの認
識が高まり、また社会の思潮が向上したことで、日米マルチエスニック
人が複数民族のアイデンティティを主張しやすくなり、彼ら自身もその
主張が受け入れられるようになってきたと感じている。しかし、人種に
からむ複雑な社会制度が続く中で、複数民族のアイデンティティを主
張するには問題が多く、あえて主張しても受け入れられるまでに乗り
越えねばならない障壁がたちはだかっている。複数民族のアイデンテ
ィティを主張しようとする人々は、一人の人間として自らのアイデンティ
ティ確立の葛を乗り越えながら、民族の境界や区分の問題点に積極
的に働きかけ、社会の変化と向上に貢献しているといえよう。