5才のバイリンガル児による日本語の喪失
Yukawa Emiko,
Ph.D. Student
Stockholm University
本稿は、日本で日英語を第一言語として育ったバイリンガル児(春希)の日本語
喪失及び回復の報告である。被験者は英語圏(ハワイ、日本出国時5;5)で5カ
月間過ごし、その間日本語に接する機会が少なかったためにその喪失が起こっ
た。本研究では、自然会話、語り、言語ゲーム(しりとり、反対語)、フィクション
作り、バイリンガル話者との会話のデータを収集し、言語ゲームの結果、及び、
産出された発話の平均発話長(MLU)、エラー、コードスイッチングを分析した。そ
の結果、次の3点が明らかになった。(1)春希は、ハワイ到着後2ー3カ月で決ま
り文句以外の文章を発話できなくなり、帰国後5週間で喪失以前の発話能力を
回復した。(2)一度に一語を発する言語ゲームはできるが、文章を産出すること
ができなかった(自然会話等)ことに加え、プライミング(Bock, 1986) の有無で発
話できる文の長さが違うなど、課題によるゆれが大きかった。(3)春希の日本語
喪失は日本語という言語に関する知識の消失、変化によるものではなく、言語処
理する部分の異常によるものである。脳障害によらない言語喪失の研究に、言語
知識の変化の分析だけでなく、その言語処理能力を観察する視点を加えることは
人間の言語活動の全体をとらえる上で不可欠である。