英語・日本語間の言語転移:英語・日本語 同時バイリンガルのケース・スタデー

北里大学
平井清子


本研究は誕生から7年2ヶ月を米国で二言語同時習得していた男児が、日本に移
住(帰国)してからの13ヶ月間(7歳2ヶ月から8歳3ヶ月)を調査し、二言語同時
習得の環境から日本語優位の日本へ言語環境が移行したときに、英語と日本語の言語
間の転移がどのように生じるのかを研究したものである。特に先に行なわれた研究、
同被験者が6歳2ヶ月から6歳10ヶ月の米国滞在中の二言語習得期に行われた英語
と日本語間の言語転移の研究結果と比較し、言語環境が変わったとき、どのような変
化が起こるのか、7・8歳という言語習得段階で、どのような言語的成長が見られ
るのかを研究するのが目的である。 研究方法は(1) 日本語と英語の自主発話
(spontaneous speech)、 物語課題(story-telling)、 引き出し発話(elicited speech)
を中心としたデータを収集した。データは統語的観点、特に(1)主語の省略
(2)はい、いいえの返答について焦点をあて、フォローアプ・リサーチとモノリン
ガルの児童(日本語・英語)とのデータの比較も加えて分析した。その結果、つぎの
3点が明らかになった。(1) 被験者には言語干渉(転移)の誤りと発達段階の誤り
の両方が見られ、また、言語転移は日本語、英語のどちらの言語からも見られた。し
かし両言語について大きな混乱は見られず、いずれも短期間で克服されると推測され
た。(2)被験者の言語転移は調査期間中、一部を除き、全体的に減少した。日本に
帰国後は英語の量的インプットが減ったにもかかわらず、日本語の英語への言語転移
が克服されている。7・8歳児では両言語の量的バランスが保てない場合も、両言語
に対しメタ言語知識により、言語を習得することが推測される。(3)被験者の英語
のデータに米国滞在中には見られなかった一語返答、単純化や文法の誤りが見られ、
英語の言語喪失が見られた。




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Volume 5 No.1
November 1999
The Japan Journal of Multilingualism and Multiculturalism
多言語多文化研究