親の文化的態度と子どもの文化的アイデンティティー
—「水上の波紋」としてのアイデンティティー:
ニューヨーク在住の日本人家庭を例にー
藤生始子、
福岡女学院大学人文学部英語学科
本稿は移民家庭における親の文化的態度および言語使用が子どもの文化的
アイデンティティーとどのように関わりあっているかを調査するため、ニューヨー
ク市に永住目的で滞在する3家族の例を取り上げた。著者はアイデンティティー
をポストモダン的観点からとらえ、社会的環境の中の様々な要素に影響されう
る、いわば「水上の波紋」のようなものであると考える。調査は親と子どもに対
する家庭でのインタビューと、筆者が構築した「絵で子どもの感情や文化に対
する考えを表現する方法」により行われた。インタービューは3回行なわれ、2
回目と3回目では、子どもに自分の周りを取り巻く2つの文化やそれに関連す
る人物や物事を描いてもらった。この絵は、子ども自身を真ん中に描き、好きな
人・物・活動を自分の近くの輪に、嫌いな人・物・活動を自分から離れている輪
に描くという指示のもとに描かれた。インタービューと「波紋」の絵を分析した結
果、親の生育歴・家庭環境や文化的態度が、子どもの文化的アイデンティティ
ーに影響を与えていることが示唆された。さらに、どの家庭においても親は「日
本語は日本人としてのアイデンティティーの核である」と主張し、その思いは子
どもに伝わっているようである。しかしながら、どのようにして子どもの日本語能
力を伸ばしていくかに関して、親は苦闘していると述べている。また、日本や日
本文化が生活している社会の中でどのように評価されているかも日本人として
のアイデンティティーに影響を与えていることが示された。