言語少数派の子どもの言語態度に関するマイクロ・エスノグラフィー
―言語能力と言語価値の観点から―
佐藤真紀
お茶の水女子大学大学院人間文化研究科
言語少数派の子どもにとって、母語発達は言語面や認知面、情意面等にお
いて重要であると論じられている (Cummins & Swain, 1986; 中島,1998;等)。
近年、日本に育つ言語少数派の子どものために、母語の保持や育成を念頭
に置いた学習支援が徐々に行われるようになってきているが、その支援の
対象となる子ども自身が、自らの母語や第二言語である日本語をどのように
捉えているかという点に着目した研究は未だ少ない。本研究は、家族と共に
日本に一時滞在している韓国人の子どもである、韓国語を母語とする小学4
年生4名を事例に、地域の学習支援教室と各子どもが在籍する小学校の母
学級にて参与観察を行い、子ども、各母親、各在籍小学校担任、支援教室
支援者を対象に、半構造化面接法によるインタビューを行った。マイクロ・エ
スノグラフィーの手法を用いて母語と日本語に対する態度と言語使用を質的
に分析した。子どもの言語態度には「母語への抵抗」、「日本語への傾倒」、
「母語の積極的受容」という3つの態度が認められ、日本語を好む反面、母
語に対して否定的態度を持つ傾向があることが示された。しかし状況によっ
ては母語に肯定的態度を持つ場合もあることが示唆された。次に、母語に対
して否定的な態度を示す場面を取り出し、その要因を、要求されている言語
能力と、各言語に付与されている価値という観点から分析した。その結果、
母語の不使用には「使わない」状態と「使えない」状態という2つの内的状態
があることが明らかになった。前者は母語に対して低い価値付けをしている
ことが要因となり生じる状態であり、後者は滞日の長期化につれ母語力が
低下したことにより生じる状態であることが示された。